一六五五時


「…っ、」

 忍足は手当たり次第、民家の中を調べまわった。
 多分、跡部が隠れるとしたら、もうこの辺りしかない。

 不二と会えたのかどうかはわからないけれど、だとしたら二人でいてくれた方が好都合だった。探す手間が省ける。

「…、ここやな」

 日本刀の鞘はもう、どこに捨てたかさえ覚えていない。
 忍足は、最後の一軒のドアを思い切り蹴破って、深く息を吸った。
 気付けば何か重圧みたいなものに押しつぶされそうで、だから堪えるみたいに深呼吸をした。
 
 全部を守ることはできないと、知っていたけれど否定したかった。
 でも、もうそれもできない。

 ただ、目の前の現実がすべてで。


「…、忍足…」

 案の定、居間にいたのは跡部と、それから不二。

 忍足はまだ運が自分の方に向いていることを確信して、だから日本刀の切っ先を、跡部に向けた。


「跡部、勝負しィや」

 跡部の得物もどうやら日本刀。
 一騎打ちには面白いくらい気の効いた演出だ。

「…っ、」

 けれど銃口を向けてきた不二に、忍足はテーブルを飛び越えて狙いをつける暇を与えずに、そのままその腕を引っつかむと、不二の持っていた拳銃を奪い取って、一発、二発、床へと無造作に弾を打ち込んで、それから窓へと投げた。
 ガラスを突き破ってそれは外へと放り出される。
 とっさに不二の腕を引いた跡部が、忍足に刀を向けてきたから、忍足は笑ってみせた。

「…どや、こないな狭っこいところで刀なんか使われへん。表、行こか」

 ほくそ笑んだ忍足に、跡部は真顔のままで「いいぜ」とだけ言って相槌を打った。
 不二を生き残らせるつもりなんだろうか。
 考えることはどこも一緒だと、忍足は思う。

 外に出ると、やっぱりまだ降っていた雨。

 濡れたまま忍足は、肺に深く息を吸い込むと、まっすぐ正面から跡部を見た。
 テニスで、彼に一度も勝てたためしがなかった。勝てないと分かっていたから、試合だって二、三回しかしたことがない。
 その跡部は、まっすぐに忍足を見ていて、鞘から刀を抜くと、すっと、忍足へとその切っ先を向けた。

 雨に濡れた刃はキラリと、雫を垂らす。

 凛とした空気は、試合前のそれに似ていた。

(そや、試合みたいなもんやねん。勝ったら死ぬ、負けても死ぬ、やけどな)

 不意に笑った忍足は、妙な気分で刀を構えた。
 視界の端で、不二が険しい顔をして自分を睨んでいるのが見えたけれど、忍足はそんなこと気にもせずに、間合いを取って、刀を引いた跡部に一歩突っ込んで薙いだ。
 キンと金属同士のぶつかる音と、それから衝撃。

 刀同士で戦うなんて生まれて初めてで、だから、もう勘で動くしかないと思いながら忍足は刀で受け流しながら、一歩飛びのいた。




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