一六四九時


「…、」

 酷く静かなキスだった。
 触れて、ただ触れて離れるだけのキスは、それはキスというよりも、何か神聖な儀式めいたものに感じた。誓いみたいな、そんな儀式。
「…」
 唇が離れたのをきっかけに、跡部と不二はそっと離れた。もう触れ合うことはないかもしれないと思った瞬間、全部投げ出して泣いて縋りつくこともできると頭を過ぎったけれど、それは選ばなかった。
「守るよ」
 口に出して言うと、不二は跡部の渡してくれた拳銃を握って、そっと黒光りするそれにキスを落とした。何かのまじないみたいにも見えた。
「…」
 跡部はそっと、不二の頭をぽんと叩くと不意に笑った。いつもの苦笑の、ほんの少しだけ優しい笑いだった。
「…覚えてて、」
 囁くみたいに言った不二。
 跡部は小さく首をかしげて「何」とだけ言った。

「僕は君が好きでした。」

 悲しそうに、けれど可笑しそうに小さく笑った不二に、跡部は苦笑を漏らして不二の頭から手を離すと呟いた。



「最初から覚えてる」



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