一五五〇時



「…どこにおるんや、」

 忍足は日本刀の鞘を腰から下げて、当たりを静かに見回した。
 耳をそばだてても聞こえる物音はなくて、ひたすら雨音が短調に耳に届く。けれど確かに生きているはずの跡部の姿を探した。
 
 生きているはずのものが発する音を、耳は必死に拾おうとする。
 早く。
 早く。
 早く見つけなければ。

 切原は仕留めた。

 後はネックになるとすれば、跡部と越前。
 不二は、まあどうにかなるだろうと忍足は思う。

 体力を消耗する前に跡部をしとめたかった。

 二人で、バカやって警察に補導されかけたこともあった。
 思春期独特の変な共有感だったのかもしれないけれど、それでも、馬鹿騒ぎとガラにもない真面目な話をするのにはいちばんの、トモダチというには上等すぎる、悪友みたいな。
 そういう、存在で。


 今思うと懐かしくて馬鹿らしくて、でも笑えた。

 小さく苦笑を漏らして、不意に忍足は現実に戻る。


 今は馬鹿騒ぎするためでなく、殺すために跡部を探している自分。

(…殺さな…あかんねん)

 英二が待ってる。
 それだけを、心の片隅に置いて、忍足はまた地面を踏みしめて駆け出した。

 雨はまだ止まない。



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