一五一三時



「…っ、ァ…ぅ」

 ベッドの上で、不二は嬌声を堪えるように唇を噛んでいた。
 さっきからイくことのできない疼きを扱いかねて、不二は苦しそうに越前の髪の毛を引っ張った。
 早く終わらせたくて、早く、とにかく早く。
「…待って、もう少し」
 越前は軽く笑って、持ち上げていた不二の足をさらに開かせて腰で突く。と、不二の感度のいい体がびくりと跳ねて、まだ一度も達していないそこから、微かに白い体液が漏れた。
「、も…イ、っ」
 不二が達することができない程度に腰を使って、越前は意地悪く笑う。
「何?きちんと言わないと聞こえないよ?」
 越前が喉で笑ったのを聞きながら、不二はぎゅっと瞑っていた目をゆっくりと開く。
 滲んだ視界で越前が笑っているのが見えた。

「…も、イかせて…ッ、」

 ふ、と苦しそうに吐息を吐いた不二を見て、越前は考えるような素振り。

「じゃあさ、キスしてよ。アンタの彼氏にするみたいにさ」

 妖艶に笑う越前に、もうテニスコートで見たような無邪気さは残っていなかった。
 それが彼の生来のものなのか変容してしまったものなのか、まったく分からなかったけれど、そう、今はどうでもよかった。
 どうでもいいこと。

「…、」

 何を考えているのか分からない不二の双眸は、ただそこにある物を眺めるみたいに、ただ、開いていた。

「跡部景吾にするみたいにキス出来たら、イかせてあげるよ」

 やっぱり、意地悪く笑う越前の首に腕を回して、不二は彼の顔を引き寄せる。
 はぁ、とため息みたいに吐息を吐いて、不二はそっと越前の唇に触れて、すぐに離れた。
「…そんなんでオレが満足すると思った?」
 越前はふと真顔に戻って言う。凍りつくような真顔。

 不二はそれを見て、ため息を吐くと今度は深く口付ける。
 くちゃ、と舌が絡んだ音。

 深く深くキスをして、越前が唾液を飲み込んだ。途端。


「…ッ、?!」

 越前は驚いたように口元を押さえて顔をしかめた。

「…ァ、…ッ――!」

 ドサ、と越前の体が、ベッドから落ちた。
 酷く苦しそうに喉をかきむしりながら越前は床を這いずっていて、不二はそれを平然と見つめ、呟く。
 凍てついたような視線。

「大丈夫?…なワケないね。キスに気を取られすぎた?」

 言いながらベッドから降りて、不二は下に脱ぎ捨てられていた自分の服に袖を通し始めた。
 越前がもがき苦しんでいるのを、平然と眺めながら。
 身支度を整えると、不二は小さなビンを越前の方へと放り投げた。

 カラ、と中のカプセル状の錠剤が音を立てる。

 けれど越前はもう意識がないらしく、うんともすんとも言わなかった。

 カプセルが溶ける前に、不二は越前の喉奥にキスしたときに押し込んだ。
 舌先で、奥へと。

(…まさか、役に立つとはね)
 不二は越前の傍らに膝をついて、彼が持っていた日本刀を手にした。
 どこか重くも感じられる刀。きっと沢山の血を吸ったんだろうそれを手にして、不二は部屋を後にした。


 不二が支給された武器、それは毒薬だった。



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