一二二〇時



「…、」

 跡部は、土砂降りまでは行かないにしろ、かなり本降りになってきた雨に顔をしかめながら木の下で雨宿りをしていた。
 もっとも、雨宿りなんてのは名ばかりで、木の葉の間から漏れ落ちる雨は防げずに。
 それでも、集落に近寄る気が起きない。

 きっと行けば好戦的な誰かとめぐり合うに違いないだろうから。

「…、」

 何気なくベルトに挿してあったトカレフを引き抜いて手の中で遊ぶ。

 もしかしたら、もう不二は生きていないかもしれない。

 だったら、死んでもいいかもしれない。

 構わない。

 鈍い黒は、生きていくのに必要な希望とか気力とか、そういうものを全部吸ってしまったような重さがあった。

 魅入られたように。
 ぼんやりと黒光りするそれを見つめながら思って、跡部はふと我に返った。


(…馬鹿みてぇ。)

 けれど一度思い始めてしまったことは取り消すことはできなくて、頭の隅にちらついている不二の死をなるべく気にしないように。
 跡部は拳銃をベルトに挿すと、雨の降る森をまた歩き始めた。


 不二が死んだかもしれないと思った瞬間、この場で自殺しようと思ってしまった自分。

 馬鹿馬鹿しすぎて自嘲がもれた。



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