〇八〇〇時



『おはよう、諸君。朝の放送だ。』

 おきまりのフレーズを告げるスピーカーを睨みつけて、跡部はあくびを噛み殺した。
 未だに不二には会えない。

 この放送が、怖くもあり、唯一の手がかりでもあることを、跡部は心から噛み締めながら近くの木に背を預けた。

『死んだ人は…、一番、手塚くん、十六番、芥川くん…それから、十九番、千石くん。以上だ。まだ三日目なんだがいいペースだな。その調子で頑張ってくれ』

 淡々とした放送。
 跡部はメンバーのリストにラインを引いていく。
 死んだことを示す、無機質なボールペンのライン。

 手塚と千石も死んだ。ウチのジローも死んだ。跡部は苦虫を噛み潰したような思いで残りのメンバーを確認しなければならなかった。
 越前に不二に、菊丸英二、それから忍足と自分、それと…切原赤也。ここまで知った顔が残るとは思ってもいなかった跡部は、重いため息を吐いた。

 殺さなければならない。
 何が何でも、殺さなければならない。

 忍足や、ほかのメンツもだ。

 それから跡部は地図を出して禁止エリアを潰すためにペンを持ち直す。。
『禁止エリアはDだ。以上。健闘を祈る』
 ブツ。と放送は途切れた。
 跡部はDの地域を潰して、E、Fエリアを眺める。Eは湖、Fは集落。けれど不二がどこにいるかなんて、跡部には一向に見当がつかない。不二も、自分をさがしているんだろうかと、それだけを考えた。
 こんなに狭いなら、否応なしに鉢合わせになるだろう。

 その鉢合わせになる相手が不二であることを願うしか、跡部にはもう出来なかった。


 殺すしかない。
 自分が生き残るためにじゃない。



 彼を、生かすために。










同時刻



「?」

 放送を聞いた越前は、不意に首をかしげた。

 おかしい。

 とは思ったけれど、まさかこのシステムが狂うこともデータを収集しそこねることもないだろうと想定すると、きっと…。

「俺も…まだまだ、だね」

 ふ、と越前は笑って、日本刀を左に掴むと隣のFエリアを目指して歩き始めた。
 集落に行けば誰かと会えるだろう。
 血が騒ぐっていうのはこういうことをいうのかと、越前は刀を握り直して不敵に笑った。



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