〇三四三時


「ん、…?」

 芥川が目を覚ましたのは、ちょうどそのときで、それが偶然なのか意図された瞬間だったのかは彼自身分からなかったけれど、これがチャンスなのには変わりないと思った。

 自分が登っていた木の下でそれが起こっていたのだから。

 下では、切原が手塚を殺そうとしているところだ。
 近くに倒れているのは…ああ、千石清純か。内心思って、芥川はそのまま自分のベルトに刺してあった拳銃を引っこ抜くと照準を合わせて。

 妙に冴えた頭。ゆっくり寝たからだろうか。
 試合前の高揚感みたいに、目が覚めていくのがわかった。

 照準をしぼる。

――パン!

 打った。

 乾いた音が鼓膜を揺らして、弾を放った反動が腕に伝わる。体感したことがない反動に顔をしかめて、木から飛び降りた。
 軽い衝撃があったけれど、飛び降りたのは腐葉土の上。それほど気にはならなかった。

「…ふぁー…眠い」

 目を擦りながら笑って見せると、手塚国光はにわかに信じがたいと言いたげな表情。
 すぐそこに倒れた切原は、ぴくりとも動かない。

 即死だったのかもしれないな。と、内心思いながら芥川は拳銃の先を手塚に向けた。

 だんだんと冴えてくる目に、手塚の、絶望的な顔が見て取れた。

「手塚さんとは一回試合したかったなー。ザンネン」

 ホント残念。芥川は、そう言っていつだったか試合で見せた無邪気な笑みを浮かべた。



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