二一三〇時
「なあ、オレらさ…あれから誰も会ってないけど」
ないけど?
英二は其処から先を言うのを躊躇った。
桃城が死んでから、そこから誰にも会っていない。でも、放送を信用するなら、ばたばたとみんな死んでいる。
ということはアレだ。
「…せやね…」
忍足は何を言うわけでもなかったのに、肯定。それってつまり、そういうことだよね。英二が自分のたどり着いた思考は心の内に溜めておけるほど穏やかなものではなくて、思わず口に出してしまう。
「…オレたちの周りって、人殺しだらけ?」
はは、と乾いた笑いが英二から漏れた。
病院に入ると、阿久津の死体があって、英二が気味悪がってというよりは怖がったから、診療室には入らずにいた。阿久津の死体はまだ診療室においてある。見つけたそのままで。
英二と忍足は、病院に入ってすぐのロビーにバリケードを張っていた。ベッドやら薬品棚やら、いろいろかき集めて入り口をふさいだ。窓はもともと少ない建物だったらしく、塞ぐのは容易かった。
こんなことをして、どうなるのか英二には分からなかったけれど。
「…ゴメン」
喉が痛くなって、英二は自分が泣いてるのに気付いた。忍足だって、殺したんだ。オレを助けるために。か、どうかは分からないけれど。もしかしたら自惚れかもしれないし。内心ひとり呟きながら。
冷たいくて広いロビーの床に、二人でくっ付いて座り込んでいた。広いロビーの片隅でとなりの体温だけが現実に繋がる唯一のもので、それをなくしたときに生きていけるかどうか、不安になって仕方がない。
「本当、ゴメン…っ」
嗚咽が漏れた。
わからない。
何が悲しいのか苦しいのか辛いのか分からない。
分からないけれど、不意に忍足が英二の頭をぐしゃぐしゃと撫でて笑うから、英二は何か可笑しくなって一緒に笑った。はは、っと。
「俺な、英二おったらそれでよかったんやけど」
「…」
忍足の笑いは苦笑とも何ともつかない微妙な笑いだ。
いつもそうやって彼が笑うのを英二は隣で何となく見ていた。
苦笑のような、微笑のような、自嘲のような。
すごく深い笑い方。
真似のできない、そういう笑い方。
「せやけど、馬鹿やなぁ…ずっとおりたいって思うんや」
今度の笑い方はあきらかに自嘲だった。
ため息みたいな笑いと一緒に、忍足は自嘲する。
自分を嘲る。
英二はいやだった、そういう忍足が。
無力な自分を突きつけられる。
「なー、俺さー」
「何?」
「一緒に死ぬ」
「…あかん」
「何でだよ」
「…」
忍足は笑う。
それから、今の言葉なんて聞いていないようなそんな言い草でまた言うのだ。
「…ほな、少し寝てええよ」
トントン、といつだったか怖い夢見て寝られないって騒いだ英二にそうしたみたいに、背中を優しく叩いた。
「…一緒に…寝ようよ」
「それもあかん」
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