■五月四日 二日目
二〇〇五時
不二はぼんやりと、木の幹に背を預けてナイフの柄を握り締めた。裕太が残してくれたのは一本のナイフ。自分にあてがわれた武器は、武器とはとても呼べない代物だったから、だから、これがせめてもの救いだった。
何が救いでそうじゃないのか、不二にはもうわからないけれど。
跡部はどこだろう。
始まってからずっとそればっかりだ。
自分の依存具合にいささか呆れながら、不二は空を仰いだ。木々の間から零れる月明かりは、今日に限っては何故か見えない。
そのせいで森の中は酷く暗かった。
「…」
雨が降るのかもしれない。
マズイな。不二は思う。
雨に濡れれば少なからず体力は消耗してしまうだろう。
屋内に逃れるべきか。けれど、みんな考えることは一緒だろう。なるべく鉢合わせはしたくない。
(…君はどうする?)
ため息みたいに笑いが漏れる。
砂埃や血に汚れた地図を広げると、もうエリアが三つしか残っていないことを思い出した。
これでは否応なしに鉢合わせだ。
残りは、島の真ん中、D、E、Fエリア。湖と集落はまだその中に含まれていた。
残っているのはあと何人だろう?
地図の端にメモをした名前を、スタートしたときのメンバーから引いてみる。
(…あと…9人、か)
手塚と英二、それから越前に自分を残して青学のメンツはくたばった。
千石と手塚は一緒にいるんだろうか。
英二は?英二は忍足くんに会えたんだろうか。わからない。
跡部はどこだろう。
芥川滋郎も残っている。彼の場合、この試合に乗ったか、さもなくば木の上で眠りこけているか。後者であって欲しかったけれど、多分実際は前者だろう。
彼は自分が信じるものを疑わない。自分の気持ちを疑わない。楽しいものは楽しい、嫌なものは、嫌。それはそれでいいかもしれないと不二は思う。
ただ気に留まったのが、切原赤也が生きていること。
何となく、何となくの勘だけれど、二日目にしてここまでメンバーが消えていったのは、彼の働きのような気がしてならなかった。酷く乗り気に見えたから。もしくは、越前か。
わからない。
思考が止まりそうになっている。
眠いのか、空腹なのか、不安からくるストレスか。
とにかく頭がぼんやりとしていて、らちが明かなかった。
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