〇五三四時
集落には何件か廃屋があったけれど、もう何も残ってはいなかった。
ただ、今目の前に転がっているのは見覚えがある人間で。
「…、死んでる?…よね。……ごめん」
ずっと言葉を話していないせいで、明らかに死んでいるだろう相手に話しかけてしまった。
気が狂いそうになる。
黙りこんでいると。
不二は朝日が射し始めた室内を見渡して嘆息した。もうあまり感情的な起伏もなくて、ただただ、やるせない気分だけが漂う。
どうしようもなくて、どうにもならなくて、ただ少しだけ悔やまれるのは、手を伸ばしても届くところに跡部がいない。
名前を呼んでも、側に来てくれない。
探して歩き回ったけれど、結局まだ会えずにいる。
朝の放送がもう少しで入るけれど、それが怖くて仕方がない。
本当に。
側にいるかも知れない他のメンバーよりも、誰かの死を知らせるだろう放送のほうが、不二には怖かった。
ゲームが始まって今まで誰にも会っていない。この場合、死人は勘定に入っていないけれど。
もうすっかり動かなくなってからかなり経つんであろうそれはうつ伏せに倒れていて、不二は足で蹴って仰向けにした。顔を確認したかっただけなのだけれど、それはやはりと言うか、何と言うか、予想通り乾だった。
何か刃物で切られたのか、顔面の肉が削げ落ちている。
鼻の骨が白く見えていて、眼球のスライス。
胃の中から何かがこみ上げてきそうになるのを不二は堪えた。
顔面がそれだから顔だけでは判断がつかない。けれどその長身といい傍らに落ちて壊れている眼鏡といい、乾のものだった。
腕にしている時計を見る。
五時半を少し回ったところだ。
さっき大石の死体を見つけてからまだそんなに経っていないんだろう。ただ、大石の死因も乾と同じような感じだったから、もしかしたら彼らを殺した主と同じルートを不二は通ってきてしまっているのかもしれなかった。
ここから、どう動くべきか。
ここに乾の死体があるのなら、彼を殺した犯人はもう戻っては来ないだろうし、これを見た他のメンバーも近寄りはしないだろう。
そう願おう。
今寝れるうちに少し仮眠したほうがいいかもしれない。これからどうなるかさっぱり見当もつかなかったし、今しかないなら今寝るべきだ。
「…」
不二はふと辺りを見回して、机の下に死角になる場所を見つけた。
少しなら大丈夫だろう。そう思って机の下に潜り込んだ。潜り込んで目を閉じる。
瞼の裏の闇は、けれど確実に朝日を透かして通していた。
ほんのりと赤い闇。
人間、どんな状況でも寝れるんだな、なんて、そんな呑気なことを考えながら、不二はすぐに押し寄せた睡魔に意識を受け渡した。
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