□序章。


 始まった。

 それは予告もなにもなく、悲観に暮れる間もなく始まったのだ。目覚めた瞬間に。
 おそらく、いや、間違いなくメンバー全員の記憶は合宿の帰り道、そのバスの中までしかない。
 目が覚めたとき越前は恍惚にも似た感情を覚えた。
 見たこともない教室、外は暗い。
 異常に静かなのはまだ他のメンツが机に突っ伏しているせいでも何でもなくて、目覚めた面々が言葉を失っているせいだ。
 教卓の前には河村隆が転がっていて、死んでいるのは火を見るよりあきらかだった。なぜかって、そんなの誰だって内臓が飛び出して目玉をくり抜かれていたら生きてるなんて思わないじゃん?越前は思う。というか、そうされている現場をじっくり見た側としては、生きているとは信じがたかったし、そもそも動かなくなってもう大分経っている。
 抵抗するとこうなりますよっていうことを皆に知らしめるには効果絶大だったけれど。

 教卓に立っているのは、ついさっきまで行なわれていた氷帝と青学の合同合宿でコーチに当たっていた榊太郎。多分三十四歳。越前は何となく虫の好かない顔だと思うけれど、今さら彼の顔云々を気にしても仕方がないことだろう。

(てゆーか、馬鹿っスね、河村先輩。)

 眠気を感じて、欠伸を噛み殺すわけでもなく思い切り伸びをした。
 まだどこかに睡眠剤の名残があるんだろうか。

 あー眠い。

 口では言わないけれど、そんなオーラを出しまくっていた越前に榊は表情を変えるわけでもなく言う。

「さっさと始めたほうがいいか?暇そうなのもいることだし」

 一番先頭の席に座っているせいで他の面々の顔が、もとい表情が読み取れない。
 はしゃいで振り返るような空気でないのは明らかだったし、実際血が騒がないと言えば嘘になるが、そわそわするほどかと聞かれれば答えはNOだ。

(要する、アレだよね、四日で誰か一人が全員ぶっ殺せばその人は帰れるってこと。そんで首輪が爆発するエリアが放送で教えられて、ついでに最後に複数残っててもドッカーン。単純明快でいいんじゃない?放送は朝夕計二回)
 越前は手持ち無沙汰でさっき延々榊が説明していた基本ルールを頭の隅で反芻しながら、すぐ隣に座っている手塚国光を見やった。
(こういうときまで仏頂面。)
 半ば愉快な気分になって、そのまま視線を黒板に戻す。と、榊がたった今思い出しましたって感じに付け足した。
「今回は氷帝と青学のレギュラーがメインなんだが、特別にゲストを招待している。まあ、見ればわかるだろうが」
 山吹の不良組み、それから不二周助の弟、それから…切原赤也。どういう人選かは越前には解りかねたけれど、気にしても仕方がないと、そのまま机に頬杖を付いていた。頬杖を付いたままの体勢で何気なく耳の裏を爪の先で引っかいてみたりもした。
「じゃあ、さくさく始めよう、時間も押しているし」

 榊は腕時計を見て呟いた。あーアレはきっとロレックスか何かだなとこの期に及んでどうでもいいことを越前は考えていた。しかも、結構高いヤツ。本当にこの期に及んで、だったのだけれどそれに気付くものは誰もいなかったし、だから越前は一人小さく笑っただけだ。

「呼ぶから、出席順に出て行ってくれ」

 それはスタートの合図にしては静か過ぎる合図だった。



 五月三日二〇〇〇時、殺し合いゲーム始まり始まり。



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