僕が得意なことは、飾ること。
 自分を飾ること。


 笑顔は柔らかな微笑が基本。
 誰にでもにこにこ笑って、些細なことは気にしないで。そうすればみんな僕のことを温厚で出来た人間だと思い込んでくれる。
 勉強は、ハッタリでもいいからとりあえず基本は押えておくべき。
 僕の場合はそうさえすれば、そこそこの点数は取れるしそこそこ苦労もせずに上位キープ間違いなし。そこらへんは天才だから仕方がないかもしれない。
 遊びは、そこそこノリよく。
 乗る所は乗って降りるところは降りる。そうすれば、みんなそこそこノリがよく分別がついてなかなか、友達にするにはもってこいだと勘違いしてくれる。
 それからテニス。
 強さよりも、コントロール。これ、僕的基本。
 勝つことは二の次で、相手をどうセーブできるか、どういう風に面白くゲームを運んでやるか。そうすれば大体、周りのギャラリーの女の子たちは喜んでくれるし、僕をかなりカッコイイものだと思い込んでくれる。

 スリ込みって言うのは怖いもので、これだけのことを押えておくだけでも、周りのやつらは僕がよほど出来た人間だという錯覚をしてくれる。
 飾るということは、怖い。

 ただ、僕が思うのはそういうものの怖さじゃなく。



「…、何ブッサイツラしてんだよ」
 そういうものが通用しない跡部景吾の恐ろしさ。

「…誰がブサイって?」

 むくりと起き上がると、跡部が呆れた顔で両手にマグカップを持っていた。湯気の立つそれからは、ほのかにレモンの香り。レモンのフレーバーティだ。僕が好きな、紅茶。
「誰って、お前のほかに誰かいんのかよ」
「いないけど。普通さ、世間的にカッコ可愛いだの賞賛される彼氏がうたたねしてたら、見とれるくらいしない?いや、いまさらされても気持ち悪いけど、何だい、ブサイクって。いくらなんでもそれはないだろ?」
 跡部に微笑が通用しないことを僕は知っていたから、無駄な労力を裂いて笑顔を見せてやることもなく、憮然としたままマグカップを受け取った。

 この、レモンの匂いをかぐのが好きだ。
 カップのふちに鼻を寄せたまま、僕は犬みたいに鼻をくんくんさせる。
 まぶたを閉じて鼻をくんくんさせていると、僕の家のお向かいのセントバーナードを思い出す。レモンのフレーバーティをくんくんしている僕も、何だかセントバーナードになった気持ちになった。

「…見慣れたらどーとも思わねェだろ、顔とか」
 セントバーナードから人間に戻って、僕が両目を開くと跡部は机に持たれるようにして紅茶を飲んでいた。
「君は見慣れる前から、僕のことをそういうふうには思ってなかったよ」

「何でお前がそうやって言い切れるんだよ」
 ベッドの上でひざを抱えたまま紅茶を飲んでいると、跡部はいつものどうでもよさそうな顔でベッドの端に腰を下ろした。ギィ、と、思い出したように軋むこのベッドの音が好きだ。

「何でって…だって、そうだろ」


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