何でそんなことしたんだか僕には全然わからなくて。



 でも、英二にオムライスの作り方教えてよって言ったのも確かに僕だし。
 いっつも僕にご飯作ってくれる跡部に、たまには僕が作ってあげようかなとか聖人君子みたいなことを思いついたのも僕だし。
 跡部が作ったそれを食べてくれたらまあそれなりに嬉しいかもって純粋に思ってたのも、僕だし。

 だから余計にわかんない。

 何でこんなことしてるんだろう。





*039:オムライス





「…、」
 
 鼻の奥がつんと痛かったけど、泣いたら負けだと思って唇を噛んだ。
 噛んだら少しだけ、つんとした痛みは消えてくれから、それにほんの少しだけ安心できた。

「…………」
 
 はあ、と跡部の吐いたんだろうため息聞こえて、やっぱり僕は悲しくなる。
 でもそんなことはどうでも良くなるくらい、床にひっくり返った黄色いオムライスから散らばったチキンライスが哀しい。
 あーあ、勿体無い。
 
 でもそれは偶然にひっくり返ったわけでもなくて、僕がブチ切れてひっくり返しただけだから、僕がそれを憂いているのは変な話だ。
 ブチ切れた原因はどうでもいい。ひっくり返ったオムライスにしてみれば多分、些細なことだから。

 まるでさっきまでオムライスを作っていた自分と、ブチ切れてそれをひっくり返した僕は違う人間みたい。
 ああ、そのほうが納得いく。
 
「…、帰る。」

「…あ、そ。」

 跡部はやっぱり引き止めてくれたりもしないで、何もしないでただ呆れた顔をして僕がひっくり返したオムライスを片付けようと、イスから立って床にしゃがみ込んだ。

 引き止めてくれないなら、僕はここに残ることができないから。
 だからさっさとリビングのソファの上にあった鞄をつかんで廊下に出て靴を履いて玄関を出た。
 入ってきたときに閉じた音とは大分違って、固い冷たい音がしてドアが閉じた。
 泣かないよ。女の子じゃあるまいし、こんなことじゃ泣けない。

 でも最後の最後ですっごい頑固な意地っ張りの僕をどうにかなだめて、僕は跡部の家の玄関の外の、道路で立ち止まった。
 一度だけドアを振り返ったけれど、やっぱり跡部は追いかけてこない。

 バーカバーカ、跡部のバーカ。

 僕はやっぱり意地っ張りだから、間違っても戻って一緒にオムライスを片付けてゴメンナサイを言うことなんて出来ないんだ。
 もし何度でも時間を戻ってやりなおせるとして、百回やっても一回たりとも、僕はそんなことできない。

 意地っ張りな、男の部分の僕。
 知ってるんだよ、跡部が僕のこと女の子扱いしていないし、ただの恋人扱いしていないから、追いかけてこないこと。
 対等に扱ってくれるから慰めたり甘やかしたりしないこと。



 でも、僕は意地っ張りだから駄目だ。

 


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