秋といえば文化祭。
 文化祭といえばステージ発表。
 ステージ発表といえば、部活対抗の獲得票争い。

 どこの学校も大概そんなものだ。


 ただ、氷帝学園男子テニス部部長は、あまり乗り気じゃなかったっていう、それだけの話。





*037:スカート





「みんな揃ォたな?よしよし。今日は部活を返上して、来る文化祭に向けてのミーティングを行ないたいと思います」

 微妙なアクセントの標準語で語尾を締めくくった忍足を、跡部は座っていたパイプイスに腕をひっ掛けて、ちらりと睨んだ。
 もちろん、そんなこと忍足が気にするわけでもなく。
 部長がいるのにミーティングを仕切っている忍足に何の疑問も抱かないテニス部のレギュラーメンバーは、口笛を吹いたり拍手したり奇声を発してみたりと各々忍足の提案に賞賛を示した。
 例外的に芥川は机に突っ伏して寝息を立てているけれど、これもいつものことなので誰も気に留めない。
「えー、去年の『白雪姫』は大盛況、見事『部活部門』1位を獲得したわけやけど」
 そこまで言った忍足に、やっぱり無駄な歓声が起こる。
 忍足もまんざらじゃない感じに笑んで、それから手で制止をかけるとまた言葉を続けた。

「今年ももちろん1位を狙って行こうと思うわけや。そこで、今年の演目を発表すんで!」
 持っていたプリント用紙をぐしゃりと握りつぶして言った忍足。
 やっぱりメンバーは「よっ!」とか「待ってました!」とか妙なノリの掛け声を掛けて盛り上がる。
 もちろん例外で芥川は机に突っ伏して寝息を立てているけれど、これもいつものことなので誰も気に留めない。

「ダラララララララララララララーン!今年の男子テニス部の演目は『シンデレラ』や!!」

(…スタンダードすぎだっつーの!!)
 妙な盛り上がりの中内心そう突っ込んだのは、不幸にも跡部1人だけだったらしい。
 他のメンバーはもう何を目的に騒いでいるのか分からない感じに盛り上がってしまっていて、しかめっ面の跡部に気付きもしない。

「えーまず、キャスティングを」

「オレ主役?」
 はいはい、と挙手して聞いた岳人に、忍足は「大人しく聞いとりや」と返してさっさとぐしゃぐしゃになったプリントの2枚目を捲った。

「えー、じゃあ脇役から。『カボチャ』、ジロー、『ネズミ』、鳳、宍戸。『魔法使い』、滝。『意地悪な姉』、樺地、日吉。『継母』は岳人」

「何で俺らがネズミなんだよ、オイ」
 マトモなツッコミをしてきた宍戸に、忍足は笑顔で「せやったら、カボチャでもええよ」と返してきたので、宍戸は無言で首を横に振った。
 岳人の「オレ主役がいいー!」という駄々も聞き流す。
 ワンマン化してきた忍足は、さっさと上機嫌に「ほな、主役な」と言ってまたワケの分からない効果音(多分ロールをしたいんだろう)を口で言い始める。
「ダララララララララーン!『王子』、オレ。」

 瞬間ブーイングの嵐だったけれど、そんなのどこ吹く風。
 忍足は「次は栄えあるシンデレラの発表やでー」と笑った。
 もう、残っている面子が1人しかいないことを、みんな知っていて言わない。
 というか、忍足の隣で仏頂面もといしかめっ面をしてる誰かが怖くて言えなかった。

「『シンデレラ』、我らが部長跡部景吾!」

 わー、とみんなが拍手をしたけれど、かなり心のこもっていないことは明白。
 瞬間跡部は全力でパイプイスを蹴り倒して立ち上がると、そのまま忍足の胸倉を掴んだ。

「…跡部、暴力はあかん」
「てめぇマジブッ殺すぞ!」
「ええやん、一生に一度のことやもん」
「そう言って去年は俺が白雪姫だったんだッ…!」
 がくがくと奇怪な動きをしてる忍足の頭を気にせずに跡部は胸倉をつかんで揺する。
「今年は絶っ対やんねェかんな!!」
「なんでや、一回も二回も変わらへんやろー」
「今年は…!」
 ああもう、と1人舌打ちして忍足の襟首を離すと跡部は全力で忍足を睨むと、吐き捨てた。

「配役、明日までに変更して再発表しろ、じゃねェと俺はボイコットする」

 バタン、と乱暴に部室のドアを開けて閉めて外へと出た跡部。
 部室の中からは忍足の「ええんや、ええんや、もう決定やから」なんて脳天な声が聞こえていて、跡部は眩暈を覚えた。

 今年の学祭には。



 不二が来る。




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