*034:手を繋ぐ



 不二は何気なく、コンビニの雑誌を手にとってパラパラと捲っていた。
 メンズのファッション雑誌。
 チカチカと目に痛い蛍光灯と、コンビニの外の、藍色の夜。
 店内を流れていた有線放送が、不意にそのコンビニのCMソングに変わった。

「欲しい雑誌見つかったか?」

 不意に背後から跡部に覗き込まれて、不二はすぐに雑誌を閉じて棚に戻した。
「うん、でもいいや。今月イマイチだったから」
 跡部はもう会計を済ませたらしく。
「あ、そ。」
 どうでもよさそうに跡部はコンビニの袋を下げて、「帰るぞ」とだけ言ってさっさとコンビニを出て行ってしまう。
 不二はその後を追いかけて、半歩先を歩いていた跡部の隣に駆けていくと並んだ。
 かさり、と白い袋が鳴る。
 街灯のオレンジがぽつんぽつんと並ぶ、住宅街の細い道。
 
 涼しい夜の風がすっと通り抜けて、不意に不二は少しだけ肌寒さを感じた。
 ああ、パーカー着てくればよかったかな、なんて思いながら、さっき立ち読みしていた雑誌のコラムを思い出す。
 キスとかセックスとかは、好きじゃなくてもできるけれど、手を繋ぐということは特別相手のことを思っていないとできないらしい。
 何ていう雑誌だったかは見てすらいなかった。

(…そんなの、嘘っぱちだよ。)

 特に理由も無く跡部に話しかけたくなって、不二はどうでもいいような話題を無理やり探してみた。
「何買ったの?」

「チューハイ。あとチョコと、キシリトールのガム」

「…跡部って意外と甘いの好きだよね」

「意外って何だよ」
 不満そうに言い返してきた跡部は、ほんの少しだけ寒そうだった。
 というのはあくまでも不二の予想。そうだったらいいな、なんていう仮想。
 着ていたのがTシャツ一枚だったから。
「別に。」
 不二は笑う。
 天気予報によれば、これから雨が降るらしかった。
 それでもまだ、見上げた空には暗いけれどハッキリとしたまばらな雲と晴れた夜の空があって。
 雨はまだ大分先なのかもしれない。
「…、」
 何気なく跡部の顔を見やると、彼は何だかどうでもよさそうに、今しがた買ったばかりのキシリトールの板ガムを袋から取り出して、包みをはがした。
 ぺり、と紙の破れる音がして、不二は器用にガムが剥かれるのを何気なく眺めていた。
 一枚くちにくわえて、跡部はもう一枚ガムを剥いてくる。
「二枚食べるの?」
 怪訝そうな顔をした不二に、跡部はそれ以上に怪訝そうな顔。
 お前何言ってんの。くらい言いたそうな顔だったけれど、生憎口にくわえられたガムがそれを許さなかった。
「ん、」
 もう一枚のガムを不二の口元にさし出して、跡部は不二がきょとんとするのを呆れた顔で見ていた。
 それからいい加減通じないのがイヤになったのか、口にくわえていたガムを完全に口の中に入れてしまってから。
「食わねぇの?」
 そう聞いてきた。
「…食べる。」
 やっぱりぶっきら棒に差し出されたガムを、不二は何だかくすぐったいやら憎らしいやら微妙な気分でぱくりとくわえる。
「ごちそうさま」
 ガムを咀嚼しながら言うと、跡部はまたどうでもよさそうに「ああ」と呟いた。

 やっぱり不二はさっきのコラムが嘘っぱちだと思う。
 というより、そんな無様なマネはする必要さえないんだろう。

 それを考えると可笑しくなって不二は不意に笑った。

「何」
 跡部が怪訝そうに不二に問うと。

「別に、手なんて繋いだら気持ち悪いと思っただけ」

「…はあ?」

「何でもないよ。」
 もう一度不二は可笑しそうに笑った。





 END
 7/11/03

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