もしかしたら、自分が微塵も信じていない朝のニュースの星座占いは実は当たっているんじゃないかと思ったのは、別にただぼんやりとそう思ったわけじゃなく、そう信じざるを得ない現実に直面しているからだった。
今朝の占いは最下位だったのが、もしかしたら当たってしまっているのだろうか。
跡部は無言で、真剣に悩んでいた。
*030:通勤電車
そもそも、たまたま今日に限って練習試合の会場が他校だったせいで普段乗らない電車に乗るはめになってしまったのが運のつきだったのか、それとも部長という立場のせいで他のレギュラーよりも早く会場に行かなければならないのがいけなかったのか、むしろ部長になったのがそもそもの間違いだったのか、と跡部の思考が半ばエンドレスに陥っていた時だった。
「…あれ?跡部」
通勤ラッシュのぎゅうぎゅうすし詰め車内で、不意に聞きなれた声がした。
「………、」
視線だけを動かして見た先には、不二周助がテニスバッグを提げてつり革につかまっていた。
跡部は今日は青学も合同で練習試合をすることをぼんやりと頭の隅で思い出す。
いや、そんなことはどうでもいい。
どうでもいい話なのだ。
今直面している現実に比べれば。
不二との距離は約1メートル。
たかが1メートル、されど1メートル。満員電車の中では少々遠い距離だった。
助けを求めるには遠い距離。
いや、つーか。
跡部は思う。
むしろ、ここで第三者に助けを求めればかえって目立つ、というか不二なら騒ぎかねない。それは嫌だった。
こんなのが不二にバレたら絶対に話のタネにされて、妙な噂が立ち、さらに面白がった忍足たちに散々遊ばれるに決まってる。
それだけは避けたい。
でも、現状維持も御免だ。
「…、」
つり革をぎゅっと握り締めて、跡部は小さく舌打ちを漏らした。
それが間違いだったと跡部は思いたくないけれど、その反応に不二が怪訝そうに「どうしたの?」と聞いてくる。
「…別に」
そう小さく答えたけれど、不二の疑問は解決されなかったようだ。
怪訝そうな顔のまま、不二は何気なく跡部をじっと見て、そして不意に気付いた。
「…あ。」
車内では次の停車駅に近づいたことを知らせるアナウンスが聞こえていたけれど、生憎、跡部はそれどころじゃない。
不味いと思った。
今の現状も不味いけれど、不二がそれに気付いたのも相当不味い。
いや、もういっそこの際なら不二が気付いて助けてくれた方がマシかもしれないけれど、なら最初から自分で解決したほうが格好悪くないし、むしろ不二に助けてもらったほうが格好悪い。それこそヘタレだのなんだのと後々指をさして笑われるわけなのだから、自分でさっさと解決したほうがよっぽど建設的だった。
というか、そもそもこの事態がありえない。
跡部がそう思ったけれど時、既に遅し。だ。
「…ちょっと、そこ!」
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