*024:ガムテープ
引越し日和だ。
不二は思って窓を開ける。
小さなワンルームマンション。
部屋はもうあらかた荷物を詰め終えて、ダンボールがあちこちに積み上げてあった。
(…あと一箱。)
思って、殆どがら空きになった本棚の片隅から、アルバムを何冊も引っ張り出して埃を払う。
しばらく開いていなかったそれは、埃にまみれていた。
自分で撮った写真。
最近はカメラに触ることさえなくなったけれど、それでも中学から高校に掛けてはずっと持ち歩いて馬鹿みたいに撮っていた。
撮りたいものが特別にあったわけでもないのに、なぜかその瞬間を残さないといけないような焦燥に駆られてシャッターを切ることが多かったような気がしなくもない。
何がそんなに駆り立てたのか、今でも解らないけれど。
つい懐かしくなって、不二はフローリングの上に寝転んでアルバムのページをめくった。
ダンボールしかなくなった部屋は予想以上に広くて、寝転ぶと日差しを受けて暖かくなった木の感触が気持ちよかった。
「…、」
一ページ目を開いて、不二はすぐにアルバムを閉じた。
ダメだダメだ、こんなもの本当は捨てたほうがいいのに、でも捨てられずにいる自分は未練たらたらなんだろう。
本当に馬鹿だとは思うけれど、そればかりはどうにもならないらしい。
ダンボールにアルバムをつめると、封をしようとガムテープに手を伸ばす。
と。
ガムテープがもう切れてしまっていること、今になって気付いた。
あと一箱分のためにわざわざ買いに行くのも面倒だったけれど、たかが一箱されど一箱。
荷造りしなければいけないのだから、どのみち買ってこないとダメだ。
「…」
今日は暖かいから上着も要らないだろうと思って、薄いシャツそのまま、財布と家の鍵とだけを持って玄関を出た。
歩いて数分のところにあるコンビニは、今日も例に漏れずまだ初夏に差し掛かるかどうかのところなのに、無駄に冷房が入っていた。
上着を持ってくればよかったかとも思ったけれど、ほんの数分だから仕方ない。
文房具のコーナーに回って、ガムテープをさがすと、目的のそれはすぐに見つかった。
ガムテープを手にとって、そういえばもうお昼時だったことを思い出す。
(…コンビニ弁当でいっか…)
今さら作るのも面倒だし。
不二は思うと、そのままお弁当コーナーへ。
角を曲がるときに、履いていたスニーカーの底が床と擦れて、キュ。と嫌な音がした。
ミックスサンドとシーチキンのおにぎりと手に取る。
「…不二?」
不意にとなりから声を掛けられて、不二は一瞬自分が呼ばれているのかどうか解らずに、リアクションが遅くなった。
「…?」
不思議そうに後ろを振り返ると、イヤというほど知っていたけれどここ数年ずっと顔を合わせていなかった知人が立っていた。
「…跡部、…すごい久しぶりだね」
はは、と笑ったけれど、笑えているのかいないのか不二にはわからない。
ただしばらくぶりの知人はずっと昔に見た苦笑を今も浮かべていて。
「何年ぶりだ?五年くらいか?」
「四年ぶりだよ。」
小さく笑って、不二は跡部の持っていた弁当に気付く。
「君もこれからお昼?」
微笑。
「ああ…湿気てるけどな。」
苦笑。
「天気もいいことだし、公園で一緒にどう?」
「…ああ、久しぶりだしな」
何となく、ただ何となく。
二人で並んで近所の公園に向かった。
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