*021:はさみ
跡部と喧嘩した。
「…不二ィ、いい加減機嫌直して謝ってこいって」
面倒そうに英二は言う。
何でそんなに面倒そうかって言うと、深夜の1時に常識のなっていないキレた僕が無理やり呼び出したからだ。
近所の公園にね。
多分面倒そうな原因はそれだけじゃなくて、僕が延々跡部と喧嘩した経緯と文句をつらねたせいもあるんだろうと思われる。
でも普段僕も英二のそういう話を延々聞かされているからオアイコだと思うわけ。
でしょ?英二。
ごめん、とは上っ面で言ったけれど、英二は眠そうにブランコを揺らす。
ユーラユーラユーラ、キィーキィーキィー。
ていうか、何で僕が謝らなきゃならないの。
「僕は悪くない。」
ブーたれた可愛くない顔のまま、僕は英二みたいにブランコを揺らす。
地面を蹴ると公園の地面の固い砂が、ザッと鳴いて湿った土がめくれた。
どことなく寒い。
近くに生えている雑草に、夜露がついてキラキラ光っているのが街灯のお陰でみえた。
きれいだなーと普段なら思うんだろうけれど、跡部のせいで心身ともに荒んでいる僕には今そんな心境にはなれない。
ムカつく。
「だって僕はさ、ごめんって言ったんだよ。ちゃんと。」
「…まあ、跡部だって疲れてたんだよほら、大会近いし…。もう一回ちゃんと謝ったらわかってくれるよ?」
普段なら絶対ぶーたれるのは英二で慰めるのは僕で、だからこのいつの間にか奇妙に逆転してしまった関係に僕は内心ちょっと首を傾げつつ、それでもやっぱりムカっ腹が立つのは変わらない。
だからもう一度思いっきり地面を蹴ると、キィーとブランコが錆びた音を立てて揺れた。
街灯の光り以外にはもう明かりは無くて、公園の誘蛾灯がチカチカと無機質に白い光りを放っているのが目に痛い。
ぼんやりとした真っ暗闇のブランコで、僕は怖いなんてちっとも思わずに、背後に広がる防風林を振り返る。
真っ暗な中からザワザワとささやき声みたいな葉の擦れる音がして、それはまるで、いつ僕らをさらって隠してしまおうかと誰かが相談しているみたいだ。
神隠し?
ならそれもいいかもしれない、跡部は心配し腐って死んでしまえばいい。
バーカ。バーカ。跡部のバカチン。
「不二、非常に言いにくいんですが。」
決心したような英二の言葉に、僕は首をかしげた。
何で英二がそんな僕みたいな神妙な顔をしなけりゃならないんだよ。
「…オレ、眠いから帰る。」
は?
思った僕に言葉を挟む機会を与えずに、英二はブランコから立ち上がる。
と、すぐそこに止めてあった自転車にまたがると。
「不二もさっさと帰んなよー。じゃ、おやすみ」
その一言を残して英二はさっさと自転車を走らせて遠ざかっていってしまった。
ちょっとちょっと、それはないんじゃない?
いくら僕が夜中に呼び出したからってさっさと帰るのはちょっとそれって友人あるまじき行為だと思うよ。
て、英二行っちゃったし。
バーカ、忍足くんと喧嘩してももう相談に乗ってあげないからね。
なんて内心文句を言ってみても誰もいないから実際は発散できないわけであって、だから僕はちょっとどうしようもなくなって、ああ、近くにコンビニがあるから、とにかくそこで時間を潰そうと思いついた。
今日は本当なら今頃跡部の家でお泊まりなんだけど、喧嘩したからそうもいかない。
面倒だな。
住宅街をとぼとぼ歩いて、ちょっと車の行き交いが激しい通りに出る。
一軒だけ煌々と蛍光灯の白い光りがチカチカしているセブンイレブン。
眩しすぎて目が痛い。
公園の誘蛾灯のごとく煌めくそれに、深夜人々は集うわけだ。
さながら蛾だね。…僕も含めてだけど。
コンビニって誘蛾灯みたいでついでにゴキブリホイホイみたいでアリコロリ。
人間寄せ集めちゃって、まあ、別に入ったきり出られないわけないから、そんなホイホイやコロリみたいに物騒なわけじゃなし、でも集まるという点で機能はちょっと似ているような気がする。
ウイーン、と勝手にドアが開いて僕を招き入れてくれた店内を、即行右に曲がって雑誌コーナーへ。
時間つぶしには立ち読みしかない。
手近にあった音楽雑誌を手に取る。
どれどれ。
あ、新曲出てるんだー欲しいな。
跡部買ったかなー…って駄目じゃん僕。
跡部とはたった今喧嘩してきたばっかなの。
あー思い出したらホントむかっ腹立ってきた。
跡部のウンコたれー。
「…あれ?不二やん。」
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