*014:ビデオショップ



 明日は休みだから、ビデオを借りてこようよ。
 言ったのは不二。
 どうせ選ぶのに時間掛かるんだから嫌だ。
 そう言ったのは跡部。
 絶対すぐ選ぶから。
 そう言ったのも、不二。





「…まだですか。」
 さっきから何度目になるかわからない跡部の問いかけに、不二は妙に真剣な顔で振り返った。
「まだ。」
「つーかよ、すぐ決めるっつったのどこの誰だよ」
 あーウゼーと言いたげな跡部の顔を見る間もなく、不二はまた洋画コーナーに視線を戻した。
 並んでいるのは最新モノから旧作まで何でもござれ。
 それが逆に不二が決められない原因になっているなんて、このショップの店員は知らないんだろう。

 跡部は今すぐに帰りたい。
 そう思うものの真剣に棚を見つめてぶつぶつと呟く不二に何も言えないのだ。

「バイオハザードかバンド・オブ・ブラザーズか…」
「言っとくけどバンドは長げぇぞ。」
「じゃあバイオハザードかWASABIかレオン完全版か、それともマトリックスか」
「いや、俺マトリックス見たし。」
「そんなの関係ない。」
 一掃された意見に、さらに跡部は「あーウぜー」みたいな顔をする。
 不二はそんなことに気付いているのかいないのか、またビデオを物色しはじめるわけだ。

「WASABI?」
「何で今さらWASABI?」
「ジャン・レノが好き。」
「…ふうん。」
「あ、CUBE」
「今度CUBE2やるよな。つーかもう終わった?」
「さあ。それとも恋愛モノにする?」
「薄ら寒いことすんじゃねぇよ、マジで」
 げんなりしたような跡部の顔に、不二は何か閃いた顔。
「そっか。」
「何が」
「AVにすればいいんだよ」
「…あのナァ、俺ら中坊だからレンタルはできねぇの。」
「帰り道に自販機あるじゃない。アレでいいよ」
「あんなの、つまんねぇのしかねぇじゃん」
「イイヤツないの?」
「あるわけねぇだろ。たかが自販に」
「そっか…」
 いや、そんな真顔でそっかとか言われても、なんて跡部が内心悲しいような寂しいような気分になったことを不二は知らないんだろう。
 明日の天気を話す様な顔で平然とそんな話してほしくない。
 というのは、跡部の勝手な願望。
「どーでもいいけどさっさと決めろ。」
「…うーん、じゃあ、指輪物語?」
「…俺ら見に行ったじゃん。それ」
「あ、そっか」
 そっかじゃねぇよだから。なんて跡部が思ったのをやっぱり不二は知らない。

「やっぱバイオハザード?」
「何で」
「ミラ・ジョヴォビッチが可愛い」
「…へぇ」
「なに、『へぇ』って」
「…あーいうのがタイプなわけ?」
「ああ、安心してよ、跡部は足元にも及ばないってわかってるから」
「いや…つーか、性別違うし。」
「そういえばさぁ、姉さんのトモダチの留学生、ミラジョヴォ似なんだよね」
 ははは、と笑いながらケースからビデオを抜き取った不二。
 と。
「…やっぱほら、レオン完全版にしようぜ」
 不二の手からバイハザのテープを抜き取ってケースに戻しながら跡部は言う。
「…何。」

「うるせぇよ、黙ってレオン見てろ」

 ぶつぶつ言いながら、跡部はさっさとレオンをケースから抜き取って持ってきた。
「…安心しなよ、ミラジョヴォじゃあ歳つりあわないから」

 珍しくけらけらと笑って不二は、バイオハザードとレオンを持ってレジへと行ってしまった。




END
7/18/03

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