*013:深夜番組



「…CSってさ、見たい番組の時間帯が上手い具合に離れてるのが嫌だよね」

 電気を消して、ベッドに寝転んだまま、不二はリモコンを片手にチャンネルを変えていく。
 チカチカと目に痛い画面が転がるように目まぐるしく番組を移し変えていくのを、ポテトチップスを齧りながら、跡部はぼんやりと見ていた。あれほどベッドの上で菓子を食べるなと注意したにも関わらず、不二がベッドの上で開いてしまったポテトチップスの袋。
 人の話を聞かないのは不二の専売特許なのかと、跡部は内心嘆かずにはいられない。

 のを、不二は知ってか知らずか、「あ。あんまりポテチのカス、ベッドの上に落とさないでね。掃除するの嫌だから」ときたもんだ。

「…いや、つーか、だから俺ベッドの上で菓子食うなっつったの」

「うん?それは無理」

「あ、そ。つか、何観んの、次」

「えっとねぇ、『ボイス』って映画。」

 有料チャンネル通称スカパー。
 跡部の部屋のテレビに引かれたその有料チャンネルをリモコンで切り替えて行く不二は、眠そうに欠伸をしてポテトチップスをつまんだ。
「どんな映画」

「韓国のホラー映画。ほら、ちょっと前にCMやってたじゃない?」

「…あー、あの、前に別の映画観にいったときに予告やってたヤツな」

「そう、それ」

 有料チャンネル通称スカパー。
 ご親切何だか微妙なところだけれど、ここの連休特別24時間映画チャンネルが放送されることを知った不二は「じゃあ、全部見ようよいっそ」なんてわけの分からないことを言った挙句、問答無用で跡部を巻き込んだ。
 きっと眠ったら、洗濯バサミでまぶたを挟まれることは避けられないだろうと踏んだ跡部は、仕方なくその映画チャンネル、別名、不眠不休サドンデス映画鑑賞会に耐えていた。去年は途中リタイヤで洗濯バサミの刑だったから、今年は絶対乗り切らなければならない。そう、これは戦争だった。跡部的に。

「『ボイス』までまだ30分もあるよ」

「…どっか他のチャンネルねェの?」

「だから、今探してる」

 スカパーの番組表を見るのが嫌になったらしい不二は、只管、3桁番号を入力してチャンネルを回して行く。
 と、不意にチャンネルを回す不二の手が止まって、跡部はベッドに突っ伏していた顔を上げた。
 跡部が何か言うよりも、不二が先に言葉を発する。
「普通中学生がアダルトチャンネルなんか契約しないよね」

「…いや、オヤジのテレビとケーブル共用してっから…」
 画面ではちょうど金髪美女が後ろから男優に突っ込まれているところだったけれど、やっぱり不可解なのはバックに流れている、いかにも萎えそうな陽気なBGM。アメリカってやっぱり理解不能だと不二はぼんやり思いながら呟いた。
「…へぇ。ていうか、洋物って微妙」

「あー、男優キモイしな、BGM意味わかんねーしな…」

「女の子あんまり喘がないしねェ。」

 ぼんやりと二人でそんなことを言いながら、不二はとりあえずアダルトチャンネルを着けたままそこで手を止めた。
 と、番組表をぱらぱらと捲って、不二は顔をしかめる。
「ていうか、何でゲイ番組とかあるの?」

「…そーいうの需要あんじゃねーの…」
 気持ちげんなりしたように跡部は言いながら、ぱり、とポテトチップスを齧る。
「実際ホモとか引くよねェ」
 ぼやくように言った不二を、跡部は横目でせせら笑ってやりながら、同じくポテトチップスをパリパリと齧った。
「そーいうのなんつーか知ってっか?」
 跡部には目もくれずに、ぼんやりとアダルトチャンネルを見ている不二。
「何さ」
 
「目くそ鼻くそを笑う」
 
「…うるさい黙れ。」

「…。」
 憮然と呟かれた文句は、多分自分でも自覚済みだったんだろう、不二は「一々そういうこと言わなくていいよ」と呟くと、「実際さ、ホモAVよりも普通の方がヤル気は出るよね」なんて身も蓋もないことを言った。


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