高校に入って、部活がさらに忙しくなった。
久々のオフの日、僕は跡部に会いに出かけた。
炎天下の、日曜日。
*012:ガードレール
跡部のところに行く途中には、ガードレールがある。
そんなものどこにでもあるけどさ。
そこのガードレールってボコボコで、多分車がぶつかりやすいんだろうね。
事故も多いらしい。
塗装が剥げてボコボコになったガードレールを眺めながら、僕は歩く。
跡部の所へ。
鼓膜を揺るがすのは、何よりも車のクラクションよりも、しぶとくて密集した蝉の声。
命短しとばかりに鳴き叫ぶ声をしっかりと耳に残しながら、僕は額に滲んでくる汗を手の甲でぐっと拭った。
稀に見る夏日の炎天下。
じりじり肌を焦がすみたいな太陽は、青色の空のすごく高いところにあった。
正午、南中。
黙っていても喉が渇く。
汗が滲む。
こんなことなら可愛い子ぶってタンクトップの重ね着なんかしないで、Tシャツ一枚で来ればよかった。
ベージュとカーキの重ね着と、ビンテージのジーンズ。
…似合わないって英二に言われたけど、姉さんが誕生日に買ってくれたからはかないと悪いしさ。
服と肌との間に確かに残る暑い空気。
ここのところずっと冷夏だってニュースが駆け巡っていたくせに、気まぐれな天気は照りつけるような太陽。
アスファルトを揺らす陽炎を見ていると、何だか頭の芯がぼうっとして一瞬平衡感覚がなくなってフラリとした。
「…っ、」
危ない。
と思った瞬間。
「…ったく、馬鹿かよお前。」
「あ…れ?…跡部」
向こうで待ってるはずの跡部は、確かに僕の腕をつかんでを支えて呆れ顔でポカリスウェットの青い缶をほっぺたにくっつけて来た。
「…冷た、」
缶を受け取って僕はそれを首筋に当てる。
ひんやりというよりは、キン、と冷たい。
けれどそれが気持ちよくて、小さく笑った僕に跡部はため息を吐いた。
「…暑いの弱いなら帽子かぶるとかしろっつってんだろーが」
「うん…ていうか、跡部なんでこんなとこいるの?」
「どっかの馬鹿が遅いから見にきた」
「…あっそ。」
「おら、とりあえずそれ飲めよ」
「ああ…うん。なんかね、すごいよ…頭痛いもん」
「ただの熱中症だっつーの、馬鹿かよマジで」
ああ、面倒臭い。跡部のため息はそう言っているみたいで僕はちょっとだけ拗ねたように唇を尖らせて、ポカリの缶を開けた。
プシュ、って音がして陽射しに飛沫がキラキラした。
口をつけてごくごく飲むと、冷たいのが体の中を落ちていくのが手に取るように分かる。
気持ちいい。
歩道橋の下の、ガードレールの端に腰掛けて、一気にポカリを飲み干した。
「…最近調子どうだよ」
苦笑して笑った跡部。
部活が忙しくて全然会いに行けなくて、今日は久しぶりのオフを跡部に会うために空けていた。
「インハイに、行ける事になったよ」
「ああ…知ってる」
「見ててくれたんだ」
何だかくすぐったくなって笑うと、僕はそっと、隣の跡部の横顔を盗み見た。
苦笑して頷いた跡部。
「…ああ」
何でだろう。
何で、こんなに。
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