*010:トランキライザー



 トランキライザー:抗鬱剤、精神安定剤。




>>>am3:08


「…、」

 不意に、落ちるような妙な感覚を覚えて、不二は目を覚ました。
 何てことは無い、寝るか寝ないかの微妙な間をさ迷って、寝ぼけただけ。
 目覚める手前の落ちるような感覚を一瞬思い出して、不二は縋るように枕元の目覚まし時計を見た。

 深夜、3時8分。

 まだ夜は明けない。

 窓を閉めずに寝てしまったらしく、小さな窓は、風が吹き込んで閉めたブラインドがカシャン、と音を立てて揺れた。
 
 時計の針が神経を逆なでるように、耳について。
 
 不二は怖いと思う。
 何が怖いわけでもない、全部が怖い。
 自分がこのまま溶けてどこにも存在しなくなるような恐怖。

 足の先からぞくりとした寒気を感じて、けれど体が竦んで不二は窓を閉めにベッドから降りることもできずに。
 羽織っていたケットを抱きしめるように体を縮めて、枕に顔を埋めた。

 けれど、恐怖は取れなくて。
 不二は目を閉じてみたけれど、まぶたの裏側には途方も無い暗闇だけが潜んでいて、また目を開いた。
 カチカチと、時計の針が嘲るようにゆっくりと進む。
 朝日が昇る気配なんて微塵もなくて、不二はこのまま眠ってしまえたらどんなに楽だろうと思いながら。
 それでも、一度目が覚めてしまうと、もう眠れない。

 またブラインドが風に揺れて。
 カシャン。
 何かが追いかけてくる足音のようにも思えて。

 不二は枕元に置いてあった携帯電話に手を伸ばした。

 開いて、リダイヤルを押そうとして、そのまま押さずに携帯を閉じた。
 ぱたん。と閉じて、ぎゅっとそれを握る。
 
(…駄目だ…怒られる)
 
 ため息というよりは、体の中の恐怖を搾り出すみたいなため息を吐いて。
 不二はまた、携帯電話を握りしめたまま目を閉じた。


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