*008:パチンコ
ジャララララララララララ。
(…お、リーチリーチ。)
けたたましい音が響く店内にずっと座っていると、段々と鼓膜が麻痺してくる。
跡部は特にうるさいとも思わずに、新しいタバコを箱から出して火をつけた。
マルボロ。赤。
煙を吐き出して、隣に積んだ箱の数を勘定してみる。
1、2、3、…7箱。
繁盛繁盛。
今日は調子が良いと思った。
思い返せば朝のニュースの星座占いで、自分の星座が1位だった。
仕事運は最高。
金銭運も最高。
恋愛運は思いもよらない人を再開するかも。
当てにならない占いも、金銭運だけは信じる気になれた。
今日は仕事が休みだから一日暇を持て余して、たまたま入ったパチンコ店でドンピシャ。
でも明日は仕事だからあんまり遊んでもいられない。
夕方には帰ろうと思って、時計を見るとまだ昼の3時だった。
明日はテニスクラブの臨時コーチに入らなければならない。
タバコ吸ってるのがバレたら仕事仲間にどやされるな、と思いつつも、久しぶりのタバコ。
止められない止まらない、なんてどっかのCMのフレーズが頭の中を回っていった。
(…アホらし…)
思いながらまたリーチ。
回れ回れと思いながら、煙を吐き出すと不意に。
「…え、もしかして、跡部?」
「………は?」
不意にけたたましい騒音を縫って、跡部の耳に届いた言葉。
一瞬タバコを落としそうになったのは、あまりのことに驚いたというよりも、一瞬頭の中が真っ白になったから。
「………不二、何してんだよこんなとこで」
隣の台に座っていたのは、他でもなくて、不二周助。
ここ何年か会ってなくて、連絡も取ってなくて、周りには素直によりを戻せなんて言われても、そんなヤツも居たな程度のリアクションを取ってきたけど、実はずっと引きずってたその人。
我ながら女々しすぎて笑えたから、ずっと知らない振りをしていた彼。
連絡先が分からなくなってしまって、下手をしたら、もう一生会えないかもなんて、思い始めたこの頃だった。
「そっちこそ、どうしたの?仕事は?」
可笑しそうに不二は笑って、けれど来たばかりなのかそれとも出が悪いのか、積んだ箱は2箱だけだった。
同じ台。
新しく入ったルパン三世の台。
ちょうどミネフジコがルパ〜ンコールを掛けていて、ああ、もしかしたら当たりが来るかもなんて、そんなことどうでも良くなるくらいに跡部は驚いていた。
「…今日は、たまたま休み。お前は?」
「僕は、ちょっと…プー太郎。」
はは、と苦笑した不二。
「お前ここら辺住んでたのか」
「うん、3ヶ月前くらいかな、新しくアパート借りたんだ」
「…そっか」
「跡部も、この近く?」
「ああ、すぐそこ」
ふと、不二はタバコが苦手だったことを思い出して、灰皿にタバコを押し付けた。
けれど周りがみんな吸っているから、あまり意味はないだろうけれど。
「そこの、セブンあんじゃん?」
「うん」
「そこの角曲がってすぐ」
「そっか」
→2
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