僕が写真を好きなのは、それが色あせても何をしても、とにかく自分だけの物になってくれる感じがするからだよ。
 自分だけの切り取り。
 
 ただのエゴなんだよね。
 その程度の『好き』なんだ。多分。



 不意に跡部はそう言った不二を思い出した。
 
 8月上旬、真夏の海にて。





*006:ポラロイドカメラ





「珍しいな。」

 何となく、特に考えもせずに言った跡部に、不二はほんの少しだけ考えを巡らせて、もう一人の誰かに答えを求めるくらいの間を置いてから笑った。
「たまにはね、いいと思って」
 不二の手には、いつもの古いカメラじゃなく、どこにでもありそうなポラロイドカメラ。
 不二は新しいフィルムをカメラにセットしてファインダーに緩く弧を描いた青を捕らえた。
 
 目の前に広がる、静かな海。

「…水にしたぞ」
 不二が見向きもしないことを分かっていて、跡部は今買ってきたばかりのミネラルウォーターのボトルを不二の隣、砂浜に置いた。
 表面に水を飾ったボトルは、じりじりとした太陽を受けてキラキラと光る。
 久しぶりの真夏日も、海に来ればそれほど気にはならなかった。
 清々しい、肌を焦がす暑さ。
 鼓膜に心地いい波と、それから海鳥の声。

 跡部は何気なくそれを耳に入れながら、水と一緒に買ってきたスポーツ飲料のペットボトルに口を付けた。
 体にしみこんでくる感じに、不意に海を思い出す。
 それは目の前に広がっている海じゃなし、昔どこかで、まだ母親に手を引かれて歩くくらいの頃の海。

 もしかしたら、生まれる前の海。

「…何でポラロイドにしたんだ?」

 水を差し出したときには全く右から左だった不二は、何故か今の質問に、カメラをおろして跡部を見た。
 怪訝そうな、不可解そうな。
「何で?」

「いや、別に何でもねェけど」

「…ふぅん。」

「で?」

「…すぐに欲しくなるときってない?例えば新しいCDでもゲームでも、ラケットでも何でもいい」

「別に。」

「跡部はそうかもしれないけど、僕はそうなの。」
 不満げに断言した不二は、またカメラを構えてシャッターを切る。
 いつの間にか不二の周りには何枚もの紙片が散らばっていて、だんだんと輪郭をあらわにしていく。
 その中の一枚を手に取って、跡部は何気なく眺めた。

 深い青の上に広がる薄い青。その中に一点の白。
 きっと、カモメか何かか。

「僕が写真を好きなのは―」
 言いかけた不二を遮って、跡部は言葉を続けてみた。
「被写体が自分だけのものになってくれるような気がするから。」

「…覚えてた?」



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