*003:荒野
「…」
何処にいるか、何をしているのか、そういう概念が全くないまま、不二は気がつけば荒野にいた。
でも何故か、自分がそこに居ることに疑問は感じない。
それが当たり前だと言うかのように。
何故か空には太陽とも月ともつかないものが2つ浮かんでいて、妖艶に絶望的に世界を照らす。
どこまでも続く地平線。
枯れ果てたもの。
朽ちたもの。
それから、風。
乾いた風。
「…跡部…?」
別に姿が見えたわけでも何でもないのに、不意にその名前が浮かんだ。
居たような気がした。
そこに。
「…」
けれどその呼びかけは風に流れて消えて、微かに地面を這うように吹きぬけた風が、砂を巻き上げて視界を霞ませるだけ。
不意に、気配がした。
それは人じゃなく生き物じゃなく、嵐の気配。
砂嵐。
全部をもぎ取って絶望に追いやって、命を削る砂嵐。
「…」
妙な絶望感を感じて、遠目に見えた砂嵐を。
不二は頭から被っていた麻の布を脱ぎ去って待った。
逃げられない。
逃げられない。
君は命を吸い尽くし、取り込みそして消えてゆく。
じゃあいっそ君にこの身を投げ入れよう。
唄みたいな囁きをどこからともなく耳にして、それは幻聴だったのかもしれないけれど不二は何となく笑った。
自分でも何でかわからないけれど、それは微笑だった。
暗転。
暗闇。
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