*002:階段
二人で映画を観に行った。
別に特別な日だったわけでも何でもなくて、ただ単に気が向いたのと、たまたま月の頭の映画の日で料金が安かったからっていうそれだけの理由で、二人で映画を観に行った。
わりと面白い映画だった。
その監督の作品が好きっていうのもあるけど。
やっぱイイじゃない?LucBessonってさ。
サイコーって一言に尽きる。
でも、別にその映画がどうこうって話じゃない。
跡部の家の近くの駅で電車を降りて、そこから歩き。
帰り道、見えてきたのは歩道橋の昇り階段。
何でだろう、すごくテンションが高い。
それはもしかしたら、映画の中のアクションの切れ味が良くてそれに便乗してるココロのテンションがあったのかもしれない。
とりあえず、言うならナチュラル・ハイ一歩手前。
「寒いね。」
「寒みィな。」
ちょうど歩道橋の下で立ち止まって、何となく空を仰ぐ。
もう日が暮れて点いた街灯には、冬だから蛾が群がるなんてこともなく、肌を突き刺すような寒さだけがあった。
「寒いときは走るのがイチバンだと思わない?」
「…寝る前に一運動、ってか?」
「ま、そんな感じ。ていうかただ僕が走りたいだけなんだけどね」
て、言い終わるか終わらないかのところで跡部は急に走り出して歩道橋の階段を駆け上った。
呆気に取られてたら、階段の途中で振り返って、冷静沈着ぶって不敵に笑って一言ぽつり。
「俺ンちまで競走。」
「はぁ?って、…ずるいよ!フライングじゃない!」
なんて言いながらも身体は勝手に走り出す。
スタートダッシュで勢いつけて、そのまま階段5段抜かし。
抜かして抜かして駆け抜けて一気に歩道橋の上まで走る。
車の渋滞の上を走り抜ける。
クラクションの音。
マフラー改造のエンジン音。
それから身体が風を切る音。
目算3メートル先に跡部。
街灯の光を受けて、腰につけてあるシルバーのウォレットチェーンがキラキラ光ってるのを視界に入れたまま、突っ走る。
普段走りこんでるから、全力疾走はむしろ気分爽快。
実際問題、夜にかけっこしてる中学生二人組みはきっと端からみたら奇妙で滑稽だろうけれど、そんなのどうでもよくなるくらい気分がイイ。
サイコーて感じ?
LucBessonも目じゃないね。
あっという間に歩道橋の下りの階段。
駆け下りるって言うよりは転がり落ちる。
これなら6段抜かしもイケルななんて思って最後の何段あるか解らない段数を思いっきり飛び降りた。
わりと交通量の少ない通りに入って、まわりが急に静かになる。
聞こえるのは自分の呼吸。
ドクドクいってる心臓と、それからやっぱり風の音。
首に巻いていた編込みのストールが邪魔で、毟り取るみたいに外すとそのままカバンに押し込む。
楽になった首で思いっきり息を吸い込んだら、外の冷たい空気で冷却された気分だ。
そのままペースを上げて、跡部との距離目算1メートル強。
狙いを定めて走り抜ける住宅街。
さっき通り過ぎた家の犬がワンワン吠えているのを遠くに聞きながら、跡部宅まで残りアバウト50メートル弱。
跡部との距離は1メートル弱。
駄目だよこのままじゃ負けちゃうじゃない。
フライングされたのもあるけど、このまま負けるのはプライドが許さない。
負けん気の強さは多分母さん譲りかな。
あの人温和そうな顔してアレで意外と負けず嫌い。
よくまあ父さんも結婚したもんだなんて最近思うわけだけど。
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